ウェディングドレスと6月の雨

 旧盆の休暇を挟んで週明けの月曜日。出勤すると先輩はアイスコーヒーの紙パックを持って他の数人社員と楽しそうに話していた。また誰かの噂話だろうと私は内心呆れながらオフィスに入る。足音に気づいたのか、先輩は振り返って私を見つけると満面の笑みを浮かべた。


「あー成瀬さん、ねえねえ、聞いた?」
「いえ」
「ん、もう。冷めてる場合じゃないの。本社の同期がお見舞いにいったのよ」
「誰か倒れて入院したんですか?」


 先輩はふふふと意味ありげに笑う。そして私の席に駆け寄ってきた。


「神辺さん。人事部メンバーからの出産祝いを渡しに行ったんだって。そしたら……」
「そしたら?」
「赤ちゃん、旦那さんそっくりだったんだって。あんまり似てるもんだから旦那さんが出産したのかってぐらいに」
「そうですか……」
「穂積さんの子じゃなかったのよね。はあ残念」


 先輩は紙コップにコーヒーを注いで私に差し出すと残念無念といわんばかりにため息をついた。私もそれに合わせて息を吐く。私のそれは安堵のため息。これで穂積さんの潔白が証明される……。

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