引き立て役よさようなら(番外編追加)
タイミングがいいのか悪いのか電気ポットからカチッと音が聞こえた。
お湯が湧いたのだ。
「え?」
「達央さんの家に私が出入りしているのがばれたら達央さんに迷惑かかるし
ここのマンションの住人にも迷惑をかけてしまいます。」
達央の隣にいたらきっとここまでは言えなかったと思う。キッチンだから言えたのだ

きっと情けない顔をしているだろうから・・・
本当はずっと一緒にいたいけど・・・・
今は一緒にいる事が良いとは思えなかった。

こんな状態だと余計な事を考えてみんなを魅了する歌など書けなくなる。
元々は自分が素直になって達央のいるバックステージに行ってりゃよかった。
だけどあの時の自分は素直じゃなかった。
そのせいでこんなに大ごとになったんだ。
そう思ったらここにいる訳にはいかない。と優花は思っていた。
だが・・・

「帰さない」
いつの間にか優花の後ろに達央が立っていた。
「か・・帰さないって・・それじゃ・・みんなに迷惑がー」
「それは優花が勝手に思っているだけであって、俺は優花に帰られる方が迷惑だ」
後ろから強く抱きしめられた。
優花は自分の身体を抱き締める達央の腕に自分の手を乗せる。
「・・・・だって悪いのは私なんだもん」
「悪くない・・・」
優花は首をぶんぶん横に振った
「私が意地を張っていたから・・・あの時果絵は何度も私に
達央さんに会いに行ったら?って言ってくれたの。だけど私はそうしなかった。
口では約束してないからとか打ち上げの邪魔になりたくないって言ってたけど
本当は・・・単に拗ねてただけ。もっと素直になっていれば達央さんが私たちを
探したりせずに済んだのに・・・私のせいで・・・」
震える肩を強く達央が抱きしめた。
「・・・あれは優花だけのせいじゃない。俺も一緒で素直じゃなかった。
 だから自分一人が悪いだなんていうのはやめろ・・・俺はこんな時こそ
 優花と一緒にいたいんだ。だから帰るなんていうな。・・わかった?」
「でも・・・」
達央の言葉はうれしかったがやっぱり責任は自分にあると思っている優花は素直に
頷けなかったが
「でもじゃね~の。・・・ここにいてくれ」

「・・・・うん」

 どうしても達央の言葉を素直に受け入れちゃうんだろう。
拒絶だって出来たのに・・・

心の奥の自分はやっぱり達央と一緒にいたいと思ったからなのだろう。

優花は少し温くなったであろう電気ポットのスイッチを再び押した。
< 232 / 320 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop