私がお嬢様をやめる時
結局、肝心なことはなにも喋れず
時間は無情にもあっという間に過ぎた。

もうすぐ離される手を握りながら
約束の場所へ戻る道を歩く。

「水嶋…」

「ん?」

「今日はありがと。
ここに付き合ってくれたことも
カップルのフリしてくれたことも。
楽しかった。」


私がそう言うと
水嶋は私の手をぐっと引っ張って
建物の影に連れ込んだ。


「水嶋!?」


「今はカップルだから。」


そう言って
私の唇に水嶋の唇が重なった。

私はこの時間が終わることを
引き止めるように、体を離しかけた
水嶋のコートを引っ張って
深く…長く…
お互いを確かめるようにキスをした。

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