幸せの花が咲く町で




次の日も、そのまた次の日も、篠宮さんの態度は変わることなく、いつの間にか気まずさもほとんど感じなくなっていた。



「篠宮さん…明日のことですが、お花はどうしたら良いですか?」

「今度は、堤さんのお好きな花を活けてみましょう。
どれでも好きなものを選んで下さい。
あ、もちろんこのお店以外で選んで下さっても構いませんよ。」

「こちら以外に行きつけのお店はありませんから、ここで選ばせていただきます。」

とはいったものの、いつもは篠宮さんかほかのお店の人に任せっきりだったから、いざ、自分で選ぶとなると、妙に迷いが生じた。
なるべくなら、先週使わなかった花を使った方が良いかと思いながら選んだら、やけに派手なチョイスになってしまった。



「では、明日、持っていきますね。」

「はい、よろしくお願いします。では……
あ…料理の方はどうしますか?
メニューは決められてますか?」

「あ……すみません、まだです。」

「もし、早めに決まったら連絡下さい。
僕の携帯の番号…お知らせしときますね。」

「え?…あ…はい、今、メモを持って来ます。」

そう言うと、篠宮さんはバタバタと店の中に走って行き、メモを片手にすぐに戻って来た。
僕は手渡されたメモに、携帯の番号を書き、ついでにメアドを書こうとした時にあることが頭に浮かび、その手を止めた。



「篠宮さん…自宅の方が良いですか?」

「え…?」

「その……もしもご迷惑だったらと……」



彼女は、結婚している。
特にやましいところがなくても、男の携帯番号を登録するのは迷惑かもしれないと思ったのだ。



「いえいえ。そんなことはありません。」

篠宮さんはそう言って何度も首を振った。



「そうですか?
それじゃあ……」

もしも迷惑なら、女の名前に変えて登録するなりなんなり、彼女がなんとか考えるだろう。
メアドはなっちゃんが考えたままのものだったから、変えておけば良かったと思ったものの、もう遅い。
僕はメモを篠宮さんに手渡した。



「スーパーが開いてる時間に決まったら、僕が買いに行って来ます。
決まらなかったら、明日にしましょう。」

「はい、わかりました。」
< 154 / 308 >

この作品をシェア

pagetop