幸せの花が咲く町で




「今回のはとても華やかに仕上がりましたね。
一足先に夏が来たみたい……!」

「本当ですか?」

いくつになっても、やっぱり誉められると嬉しい。



「本当ですよ。
特にこのあたりなんて、私には思いつかない配色です。
左右のバランスも、わざと同じにしてないところが素晴らしいと思います。
それに、最近では堤さんの方が花にも詳しくなられて……」

「そんなことないですよ。
僕はただ図鑑で見たことを覚えただけです。
篠宮さんは、じかに花に触れ、その花のにおいや手触りをご存じだし、どんな風に扱えば良いのかをよくわかってらっしゃるから……」

「いえ、私なんて全然……」



それは本当に他愛ない会話で……
なのに、とても心地良い。
波長が合うとでもいうのか、気を遣わずにありのままでいられる。
翔君のママなんかとは、ほんの少し喋るだけでもちょっと緊張してしまうのに……



「ところで、夏美さんは今もまだお忙しいんですか?」

「え?えぇ……
相変わらずですよ。
今日も遅いって言ってました。」

僕がそう答えると、篠宮さんの顔が一瞬曇ったように思えた。



「そうなんですか……
あ、それで夏美さんのお勤め先ですが……確か、桃田でしたよね?
どのあたりですか?」

「どのあたりって……僕も行ったことはないんですが、駅から15分くらい歩くとか言ってましたよ。
あ、そうそう、あの家具屋……茶箪笥を買ったあの店のけっこう近くらしいですよ。
なっちゃんもあの店のことは知ってたんですが、あそこは洋風の家具しか扱ってないと思ってたみたいです。」

「やっぱり……」

「え?」

「え?あ、あの……や、やっぱり…やっぱりあの家具屋は大きいし目立つし、和風のものはちょっとしかないから、洋風の家具だけだって思いますよね?」

「あ…あぁ、そうですね。
しかも、和風家具はあの次の日から出すって言ってましたもんね。」

「え、えぇ…そうですね。」



確か以前にも同じようになっちゃんの仕事のことを僕に訊ねたことがあった。
篠宮さんは、どうしてそんなになっちゃんのことを気にするんだろう?



ふと、そんなことを考えた時、僕の頭をかすめるものがあった。



(もしかして、僕があんな高い茶箪笥を買ったから?)



篠宮さんはなっちゃんと僕を夫婦だと思ってる。
僕は妻を働かせて家にいるろくでなし。
その上、あんな高いものを買う。
なっちゃんは遅くまで働いているというのに、そのことについても僕はあまり申し訳なさそうにしていない……



(篠宮さんは、暗にそのことを責めているのか?)


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