幸せの花が咲く町で




「わぁ、サクサクですね!
とってもおいしいです!」

「本当にうまく揚がってますね。」



篠宮さんと差し向かいの夕食は、どこか気恥ずかしかったものの、もちろん、いやな気分はなかった。



「……そうなんです。
そこが僕の悪いところなんですが、やっぱりまだあんまり親しくはしたくないんですよ。
親しくしたくないっていうのか、付き合うのが煩わしいんですよね。」

「それはわかるような気はします。
私も人付き合いはあまりうまくない方なので……
でも、小太郎ちゃんももうじき卒園でしょう?
それほど親密になることもないんじゃないですか?」

「ところが、小学校も一緒ですからね。
翔君とはずっと友達で、大人になっても同じ会社に入るとか言ってるんですよ。」

「可愛いですね。」


他愛ない話をしていると、電話の着信音が鳴り響いた。



「はい、堤です。」

電話は、ホームセンターからだった。
先日買おうと思った調理器具がちょうど品切れだったため、それを取り寄せてもらうことになっていたが、その商品がすでに製造中止で、メーカーにもないという話だった。
電話の最中、今度は玄関のチャイムが鳴り、篠宮さんが立ち上がって向かってくれた。



「はい、ではそちらの方でよろしくお願いします。」

調理器具は、それとほぼ同じ機能を持つ、他のメーカーのものがあるからそれにしたらどうかと言われ、僕はそれを了承して電話を切り、玄関に向かった。



「あ、堤さん。こんばんは!」

そこには小太郎と、翔君親子が立っていた。



「……すみません。
今日は小太郎が本当にお世話になりました。
しかも、送って来ていただいて……ありがとうございます。
ほら、小太郎もちゃんとお礼を言いなさい。」

「おばちゃん、ありがとう!」

「小太郎君、また遊びに来てね!」

「うん!また遊びに行くよ!」

「では、また……」

去り際に、にこやかな顔でそう言った翔君のママが、どこか冷ややかな目で篠宮さんを一瞥したような気がした。
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