幸せの花が咲く町で
「ええ…実はね。
お店が売れたの!」

「えっ!」
「ええっ!」

岡崎さんと私の声が重なった。



「こ、こんなに早くですか?」

「そうなのよ。
どこで聞きつけたのか知らないけど、ちょうどこのあたりで花屋を始めたいと思われてたらしいの。
それでね、また一から探すのも大変だし、出来れば従業員にはそのまま働いてほしいっておっしゃってるの。」

「えっ!」
「えっ!」

再び、私と岡崎さんの声が重なった。



「で、でも、そんなうまい話……
なにかからくりでもあるんじゃないですか?」

「私達も少しそのことは疑ったんだけど、お金も即金で払ってくれたし、お店の改装は少しするかもしれないけど、その他の事は今まで通りで良いって。
従業員にもただオーナーが変わっただけだって思ってくれれば良いっておっしゃって……
お給料が下がるとか、なにか特別な仕事が増えるとかそういうこともないと約束して下さったわ。」

「へぇ……なんだか今でも信じられないような話ですが、それが本当なら助かります。
俺も年だから、これからまた職を探すのは大変だなって思ってたんです。」

「その方、花屋を手掛けるのは初めてだから、仕入れのこともなにもわからないし、いろいろ教えてくれる人がいてくれると助かるっておっしゃってたわよ。
まぁ、近々、お店にも来られるはずだから、お会いしてから決めても良いと思うわ。」

「そりゃあ楽しみだ!」

その場は一気に明るくなった。
私の心も弾んでいた。
もう会えなくなると思ってた堤さんと離れずに済むなんて……
そんなことを考えた次の瞬間、罪悪感のようなものに襲われたけど、それでもやはり嬉しさの方が勝っていた。

たとえ、小太郎ちゃんが卒園して、今みたいに頻繁に会えなくなったとしても、それでも、堤さんの家の近くにいられるってことだけでも嬉しい。
奥様も安心されたようだし、岡崎さんも喜ばれてたし、とにかくそれは皆にとって幸せな報せだった。
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