幸せの花が咲く町で




「さすがに、なんでも揃ってるね!」

台所の棚や引き出しの中をのぞきながら、なっちゃんは感心したように呟いた。



「じゃあ、まずはたまねぎをみじん切りにして。」

「細かく切れば良いんだよね?」

「そうそう。」


少し緊張しながら、なっちゃんのみつめる前で僕はたまねぎを刻んだ。



「一応、包丁の持ち方は知ってるんだね。
みじん切りはこうした方が早いよ。」

なっちゃんは半分に切ったたまねぎの片割れを、手馴れた手つきで刻み始めた。



「ここに切り込みを入れて、手は軸のところを軽く押さえて…
あ、軸までは切っちゃだめだよ。」

「ちょっと待って!」

僕はノートを取り出し、なっちゃんに教わったことをメモした。



「相変わらず、几帳面だね。
じゃ、やってみて。
慌てなくて良いからね。
ゆっくり、ゆっくりだよ。」

刻んでるうちに、目が痛くて涙が出て来る。
涙をぬぐいながら、僕はどうにかたまねぎを刻み終えた。



「上手、上手!次はね、これを炒めます。」

慎重に刻んだつもりだったのに、なっちゃんの刻んだものより大きく、大きさも揃ってない。
さすがになっちゃんは上手だ。



「炒めるのは簡単だよね。
焦がさないように弱い火でゆっくりね。
飴色になるまで炒めるんだよ。」

僕はメモを取りながら、なっちゃんに言われるままにひとつひとつの作業をこなしていった。

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