エンビィ 【完】
あの男はこの後どんな行動をとるのだろうか、
そんなことを考えていれば。
「……、……くんっ…!」
焦りのにじむ、か細い声が風を切った。
この場には相応しくない、真っ赤な薔薇の花束を地面から拾い上げたのは、喪服の女。その女は躊躇うことなく膝をつくと、男の震える手に自分の手のひらを重ねた。
宥めるようにあやす、手のひら。
葬儀場という場所が、その光景を美化させている。
あの男とあたしの心を占める源は違うけれど、でも荒れ狂う度数に、そんなに差はないかもしれない。
あの男もあたしも。
どうしようもなく消化できない鈍い塊が、沈下し続けている。
男が歯を食いしばりながら、顔を上げた。
―――偶然だ。
偶然にも、その狂犬じみた瞳と絡んでしまった。
男はなに見てんだ、
威嚇するようにあたしを睨みつけてくる。