エンビィ 【完】




この雪解けの朝をにおわせる一室は、じいさんがこの訪問者、ただ一人のために用意したものだ。




「もう、いい」



黒真珠が現れるまえに、頤から手を離す。


訪問者はガラスケースを覗き込み、じいさんが散らばらせた薔薇の花びらを指で弄ぶ。



――――ふと、その動きを止めたと思ったら。



訪問者は長い髪を宙に舞わせ、

自身もガラスケースのなかに収まるという行為にでる。



男はそれには目を瞠ったものの、何も言わなかった。





「良かったな。綺麗にしてもらえて」




訪問者は“彼女”の顔の横に左手をつき、上から見下ろすようにして“彼女”のひどく目立つ髪を梳いた。


薔薇の花びらを髪の間にはさみこむ緩やかな指先は、次第に頬を撫ではじめる。



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