女嫌いな生徒会長の恋
過去  紘side


「会長。少し話をしましょう」

 菅原が廊下へ促した。

「川口はよく過呼吸を起こすのか?」

「その前に、会長。円のこと、本気ですか?」

 真剣なまなざしが俺を捉える。

「ああ。だから、知りたい」

 川口の抱えるものを。

「円は十年前に交通事故で両親と妹を亡くしています」

 !?

 家族を、亡くしていたのか。

「その事故のことを、円は自分の責任だと思っている節があるんです」

「何故」

「その日は円の六歳の誕生日でした。両親に買い物に行きたいとねだったそうです……円のせいじゃないんですけどね」

 誕生日に。

 川口は毎年、自分の誕生日をどんな気持ちで迎えるのだろうか。

「そのあと、円は叔父夫婦の家に引き取られたのですが、そこでひどい扱いをうけていたようで。だからあの子は、慣れてしまっているんですよ、悲しいことに。いじめられたり、一人でいることに」

 違う。あの日、中庭のベンチで泣きそうな顔をしていた川口を思い出す。

「川口はずっと、誰かと食事をしたかったんだ」

 菅原は目を丸くすると、安心したように微笑んだ。

「会長は、円のことよく見てるんですね。じゃあこれだけは覚えておいてください」

「何だ」

「あの子は、自分のせいで誰かが傷つくこと、大切な人が目の前からいなくなることに過剰に反応するんです」

「それで過呼吸を?」

「ええ。ですからくれぐれも、円を一人にするような真似はしないでください」

 菅原が強い視線を向ける」

「ああ。約束する」

 何があっても、川口を一人になどしない。
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