【完】『道頓堀ディテクティブ』
二度目の取材の日。
待ち合わせの心斎橋のオープンカフェに鈴井あゆなは遅れてやって来た。
「ごめんなさい」
「こちらこそお忙しいなかすんません」
人気者は大変でんなぁ、と水に口をつけた。
「実は久保谷さんとこうやって大阪でお話しできるのが、最後になるかも知れないんです」
穆が頼んであったコーヒーが来た。
「それはまた…えらい急でんなぁ」
驚いて目を丸くした。
「少し先なんですけど、東京での長い仕事が決まりまして」
「それはまた…まぁでも、それだけ全国区で人気が出てきたっちゅうことなんでしょうなぁ」
そんな素晴らしい方に取材させていただけたこっちが幸せ者です、というような言い回しをしてから、
「実はこちらも今度、頼まれて鈴井さんに渡す物があったんですが…」
「渡す物?」
「今はこちらで預かってるんですが、近々東京へ行かれるのなら、近いうちにお渡しします」
それからほどなく。
取材は本題に入った。
彼女が芸能界を目指し大学を中退したこと、体目当てのプロデューサーに夜の相伴をさせられたこと、スタイルを崩さないように彼氏を作らなかったこと…どれも、むろん初めて聞く話であった。
「こんな私だけど、もし何かで見かけたら応援してくださいね」
かわいらしい笑顔で鈴井あゆなはそう言うと、
「これから打ち合わせなんで」
と席を立った。
「…夢と努力、かぁ」
空虚になった向かい側の椅子を、穆はしばらく眺めていた。
待ち合わせの心斎橋のオープンカフェに鈴井あゆなは遅れてやって来た。
「ごめんなさい」
「こちらこそお忙しいなかすんません」
人気者は大変でんなぁ、と水に口をつけた。
「実は久保谷さんとこうやって大阪でお話しできるのが、最後になるかも知れないんです」
穆が頼んであったコーヒーが来た。
「それはまた…えらい急でんなぁ」
驚いて目を丸くした。
「少し先なんですけど、東京での長い仕事が決まりまして」
「それはまた…まぁでも、それだけ全国区で人気が出てきたっちゅうことなんでしょうなぁ」
そんな素晴らしい方に取材させていただけたこっちが幸せ者です、というような言い回しをしてから、
「実はこちらも今度、頼まれて鈴井さんに渡す物があったんですが…」
「渡す物?」
「今はこちらで預かってるんですが、近々東京へ行かれるのなら、近いうちにお渡しします」
それからほどなく。
取材は本題に入った。
彼女が芸能界を目指し大学を中退したこと、体目当てのプロデューサーに夜の相伴をさせられたこと、スタイルを崩さないように彼氏を作らなかったこと…どれも、むろん初めて聞く話であった。
「こんな私だけど、もし何かで見かけたら応援してくださいね」
かわいらしい笑顔で鈴井あゆなはそう言うと、
「これから打ち合わせなんで」
と席を立った。
「…夢と努力、かぁ」
空虚になった向かい側の椅子を、穆はしばらく眺めていた。