【完】『道頓堀ディテクティブ』
二度目の取材の日。

待ち合わせの心斎橋のオープンカフェに鈴井あゆなは遅れてやって来た。

「ごめんなさい」

「こちらこそお忙しいなかすんません」

人気者は大変でんなぁ、と水に口をつけた。

「実は久保谷さんとこうやって大阪でお話しできるのが、最後になるかも知れないんです」

穆が頼んであったコーヒーが来た。

「それはまた…えらい急でんなぁ」

驚いて目を丸くした。

「少し先なんですけど、東京での長い仕事が決まりまして」

「それはまた…まぁでも、それだけ全国区で人気が出てきたっちゅうことなんでしょうなぁ」

そんな素晴らしい方に取材させていただけたこっちが幸せ者です、というような言い回しをしてから、

「実はこちらも今度、頼まれて鈴井さんに渡す物があったんですが…」

「渡す物?」

「今はこちらで預かってるんですが、近々東京へ行かれるのなら、近いうちにお渡しします」

それからほどなく。

取材は本題に入った。

彼女が芸能界を目指し大学を中退したこと、体目当てのプロデューサーに夜の相伴をさせられたこと、スタイルを崩さないように彼氏を作らなかったこと…どれも、むろん初めて聞く話であった。

「こんな私だけど、もし何かで見かけたら応援してくださいね」

かわいらしい笑顔で鈴井あゆなはそう言うと、

「これから打ち合わせなんで」

と席を立った。

「…夢と努力、かぁ」

空虚になった向かい側の椅子を、穆はしばらく眺めていた。

< 12 / 82 >

この作品をシェア

pagetop