【完】『道頓堀ディテクティブ』
翌週。

えらく朝から蒸し暑かった昼下がり、穆の事務所に和服姿の女がやって来た。

まりあの姿を見るなり、

「あら、こないだのお人形さんみたいな」

こんなところにいたのね、と女は言った。

穆に目を遣ると、

「その節はどうも」

相変わらずの柔らかい物腰である。

「どうしました?」

「ちょっとお願いがありまして」

「はい」

言い様のない妖艶な気に、穆ですら圧倒されている。

「こないだ一緒にいた殿方を、そう…三日だけ、貸していただけないでしょうか」

「…あの男を、ですか?」

穆は目を丸くした。

頷くと女は懐から名刺入れを取り出し、

「申し遅れましたけど」

と差し出した。

秋月静、とある。

(それで店名が靜な訳や)

わざわざ旧字体にしたのは何か意味があるのか分からない。

が。

それは些末であろう。

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