【完】『道頓堀ディテクティブ』
ターミナルに入ったはずのバスは、止まるはずの停留場をスピードもゆるめず走る。
「運転手さん、逆らったら分かってますね」
えらく冷静な様子である。
「行く先は、博多駅です」
右手には、包丁が握られてあった。
「さぁこれからゲームの始まりです。まずは携帯を渡していただく」
通報されないようにするのであろう。
切っ先を突き付け一人ずつから携帯を奪って、袋に詰めて行く。
穆の順番が、きた。
「あいにく携帯は積み荷の鞄にある」
穆は答えた。
「嘘を言わない方がいいですよ」
「嘘も何も、手にないのだからつきようがない」
上着を脱いで振ってみせた。
「じゃあズボンも」
「脱ぐのは構いませんが、これで本当になかったら逆にどうします? こちらの言う通りにしてもらいますよ」
そう言ってベルトを外した。
「…もういい、次」
例の赤リュックの女は手に持っていたので、素直に渡した。
さらに携帯を預かって行く。
(これは厄介やで)
内心、穆は思案をめぐらせている。
そうするうちに。
大二郎の番になった。
すると。
「うちはケータイ持ってへん」
大音声を張り上げた。
「そんなはずはないだろ」
「あんたなあ、九分九厘持ってるって言うたかて、うちは残りの一厘や」
少数派で何が悪い、と毒づいてから、
「それよりうちはトイレ行きたいねん。あんたが変なこと言うから、漏れてまうからここで用足しさしてもらうけど、あんたの責任やからな」
言うが早いか、窓を開けて大二郎は構わずに放尿し始めた。
「もういい、わかった」
目算が狂った様子で、苦々しい顔をして先頭に戻った。