【完】『道頓堀ディテクティブ』
バスジャックの男は身柄を確保され、
──命を張った大手柄。
という大見出しと共に、大二郎の記事が写真入りで翌日の新聞の一面を飾ったのは、想像に難くない。
無論。
記憶の飛んだ穆は、新聞で知った。
が。
同時に。
例の赤リュックの女が鷹岡まなみであることも、判明したのである。
(あれがタカマナやったんか)
目深くかぶった帽子とメガネで、穆はまるっきり分からなかったらしい。
穆には珍しい失態だが、
「だいたい誰がバスジャックなんか想定するんや」
のちにこの話柄を寺内健吉に突っ込まれた穆は、そうやり返した。
ともあれ。
穆が大二郎の遺体を大阪へ迎えたのは、鷹岡まなみの新しい疑念がメディアを騒がせ始めた時期である。
無事に葬儀が済むと、
「何か自信なくすなぁ」
そもそも鷹岡まなみを見つけられなかったところにきて、相棒を見殺しにしてしまったようで、思わずまりあに、
「探偵…俺は向いてへんのかなぁ」
とこぼした。
その時。
まりあの左手が穆の頬に飛んだ。
「…弱虫っ!」
大二郎さんがそれじゃ浮かばれないじゃないですか、と叱った。
しばし黙っていたが、
「…それも、そうやな」
「明日から相棒は私がやります」
新しいコンビの誕生であった。