† of Thousand~千の定義
この男はなんだ?

部屋の主が帰ってきて動じない泥棒などいない。

強盗ならば、私が帰ってきた時点で隠れひそみ、機を見て私を縛り付けようとするだろう。

ならば。

何者か。

この闖入者に抱く違和感は三つ。

主である私を、悠長に座して迎えたこと。

私の城に隠された秘密を暴き出したこと。

そして、

「まあまあ、落ち着きましょう、草薙仁さん」

「……」

私の名前を知っている……つまり、私を調べていること。

「……何者よ」

と再三、質問を繰り返す。

後ろ手にドアを閉める私へ、

「おっと、ですから怪しい者ではありませんとも。右手のそれをどうぞ収めてもらえませんかね」

狐目男は、あまりに冷静だった。

まるで私の方が訪問者のような空気に、舌打ちする。

同時に、右手に忍ばせていた紙切れを、そうとわからないようにスカートへしまう。

この男、私の挙動を見透かしてやがる。

下手には動けない。
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