† of Thousand~千の定義
アルが言う。

「ご飯ができたから、起こしに来たよ。真輝ちゃんが早く来いって、特にね」

その、真輝が、という部分に、苦笑する。

「ったく、あのお嬢さまは……共同生活ゆえのリズム調整ってもんをわかっとらんようだな」

「いや、どうかな――家族なら、食事は揃って食べるものだ、って真輝ちゃんは言ってたからね」

「……ほう、そか」

家族という単語に少なからず、あんな夢を見たせいか、俺の天涯孤独だった時の記憶が、震えた。

「すぐに行く。先に行っててくれ」

と俺はアルを促した。

ヤツが出ていってから、思い立って、ベッドの脇に置いてある小さな机の引き出しを、開ける。

中には、たったひとつの魔術道具がしまってある。

紙ヒコーキ。

魔術道具にして、俺のことを知らないことになったアイツとの、思い出。

一瞬だけ、一瞬だけ、浸る。

そして引き出しを閉じ、思い出も、しまう。

部屋から出て、キッチンへ入った俺は、そこで食卓についている二人へ、訊いた。

「なぁお前ら、ヴァンホーテンのココア、飲みたくねぇか?」
< 115 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop