† of Thousand~千の定義
以前、あんまり彼が食い入っているものだから、横から覗いたことがある。

しかし、五分ほど眺めていてわかったのは車の魅力などではなく、私がそんな鉄の塊に、これっぽっちの興味もない、ということだった。

「長沢、私待てない」

と、腕時計を確認しつつ二分ほど待った時には、痺れが切れていた。

女の私にとって、男どもが背中を丸めて立ち読みしているカー雑誌コーナーは、まったくもって息苦しくて仕方ないのである。

ここは不快だと、はっきり定義できる。

「短気だなぁ」

溜め息を漏らす長沢は、渋々も渋々と、本を書棚へ差し戻した。

私をさんざ待たせたにもかかわらず、この男はさっさと歩き出す。行くぞの一言もない。

まったくもって失礼極まりない男だ。

まったくもって、まったくもって……
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