せいあ、大海を知る
誰かの父




「ただいまー」


中西家に着いて、桂馬のただいまの声に続いて「おじゃまします」そう言うと、すぐに家の中からバタバタと誰かの足音が走って近づいてきている。


「千夏ちゃんだー!!」


足音を聞いただけで誰なのかなんて分かっていたけれど、姿を現した小さなお友達についつい頬が緩む。大きな声で大げさに歓迎してくれる奏太君の存在は素直にありがたい。兄弟がいない私には、普段は接することのない小さな存在。


「こんにちは」


足元に駆け寄ってきた奏太君の視線の高さまで屈みこんで、しっかりと目を合わせて挨拶をした。すると、なぜかテンションの上がった奏太君は笑いながら私に抱き付いてきた。


可愛いなと思いながら、私も小さな彼をぎゅっと包み込んだ。小柄な私の腕の中にも、すっぽりと収まってしまう辺りがまた可愛い。





「お兄ちゃんにお帰りなさいは?」


抱き合う私たちを見下ろしながら、桂馬が少し棘のある感じで声をかけてきた。


「お帰り、兄ちゃん」


一瞬寒気を感じるくらいに、言葉に温もりがなかった。その言葉に素直にお帰りという奏太君は頬を膨らませて、分かりやすく不貞腐れた顔をしていた。


桂馬が冷たい理由が分かりやすくて、そしてこの2人のやり取りが可笑しくてクスクスと声を出して笑ってしまった。


「……なんだよ」


笑っている私が気に食わなかったのか、桂馬の顔はさっきの奏太君そっくりだった。


「弟に妬かないでよ」


濁さずにはっきりと指摘すると、いたたまれなくなったのか、「そんな事ない」とプイッと顔を逸らしてしまった。

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