お金より体力が大事?
そして、出発前日になって幸鷹から小花へ電話がかかってきた。


「明日、出発するんだろ?」


「うん、いろいろごめんね。
だけど、今の私は・・・」



「ああ、わかってるよ。
君が決心したことを誰も変えられはしないよ。

どこに行って半年間どう動くのかだけ教えてくれないか。」



「アメリカ縦断するの。
南米から山に沿って北へね。
帰国する前はカナダだと思うわ。」


「そっか。いいものができあがるといいね。」


「ありがとう。
あのね、幸鷹さん・・・。
半年の間に好きな人ができたら、先に幸せになってね。」



「そんな予定はないよ。
君が俺じゃ嫌だと意思表示しただけさ。

俺はいっしょにいられることが楽しかった。
仕事が忙しくても、帰れば君がいることがうれしかったから。
ただ、自分がいくらうれしくてもそれだけじゃだめなんだね。

いろいろ考えて、そんな答えしか出てこなかった。」



「幸鷹さんがそんなに落ち込まなくても。
私がワガママを言っただけだから。
だから気にしないで。
じゃ、きるね。」


「待ってくれ、明日は何時に空港なんだ?」


「見送りはいらないから。
誰にも言ってないし、このお仕事に携わる人たちとすぐに打ち合わせしながら出かけちゃうから、ここでね。」


「会うこともできないのか?」



「うん。その方がお互いに嫌な気分にならなくて済むしね。」



「もう会ってはくれないつもりなのかい?」


「そんなことないよ。
どこかで顔をあわせると思うし、私ひとりに気を遣ってほしくないだけ。」



「そのひとりだけしかいない君のことを思ってはいけないのかい?」


「うれしいけど、幸鷹さんはもっと健康的で私みたいに一度書きだしたら止まらない女じゃない人の方が楽しいと思うし、私はお金をちょっと出しただけだったし・・・。」



「俺のことが嫌いなんじゃないんだね。」


「うん。私は今の生活をしていてこんなの自分じゃないって思ったから。
ずっとひとりで生きてきて、書くことしか私は自信がないから。」


「わかった。君は苦しかったんだね。
好きなことを思い切りやっておいで。」


「ありがと。行ってきます。じゃ。」



電話をきって2人はそれぞれ大きなため息をついた。


「くそっ、俺は小花を止められないのか・・・。」


「ふぅ・・・幸鷹さん・・・ごめんなさい。ありがと。」
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