時間切れ
選択

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。」

9月3日18:47 3020g の女の子だった。
名前はすでに決まっている。
女の子だとわかってから、子どもの名前の本を買いあさり、字画だなんだとこだわっていたわりには、結局のところ旦那の好きな女優の名前に決まった。


"さおり"


まるで猿のような顔つきの我が子にはまだ"さおり"という名はかわいすぎる。
しかし、お腹を痛めた子というのは本当に愛おしいものだ。
目にいれても痛くないとはこのことかと、祖母の言葉を思い出す。


コンコン。

「失礼します。」

「はい。」

医師とスーツを着た細身の男性が用紙をもって入ってきた。


「矢野さん産後の調子はいかがですか?」

と微笑む医師に、産後のこの痛みを分けてやりたい。
男にこの痛みがわからないのが悔しい。

「産後すぐではありますがね、さおりちゃんの寿命がわかりましたよ。さおりちゃんは78歳が寿命です。」

78歳か。80歳までは生きられないのか。
私の寿命より5年も短いなんてなんだか申し訳ないが、友人の子どもの56歳に比べればいいか。



スーツの男性がペンを手に取り口を開く。

「矢野さん。さおりちゃんの右腕の寿命時計の埋め込みはいかがされますか?」


「お願いします。」


この子が自分の人生を大切に生きれるように、悔いを残さない人生を送れるよう寿命時計を埋め込むことに迷いはない。
私自身にも埋め込まれた寿命時計は左腕にある。
当時新人の医者によって右ではなく左に埋め込まれた。
おかげで右利きの私には腕時計がつけづらい思いをした。

そういえば、友人は子どもにこの埋め込みをしなかったらしい。
56歳の寿命は親として後ろめたいものだ。


「では、明日の15時にさおりちゃんの寿命時計の埋め込みを行います。こちらの同意書を確認の上、署名をお願いいたします。」

「わかりました。」

ズラズラと書かれた同意書を流すように読み最後の署名欄に名前を書いた。

あー、私は母になったのだ。
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