リセット

「じゃ、イチガヤは放課後職員室へ」


午後の授業は滞り無く終わった。
授業前に先生から何点か質問を受けたが、ここは家を出た時から覚悟していたので、問題なく過ごせた。
もちろん放課後はきちんと職員室へと向かう。


元来俺は真面目なやつなんだ。
少々髪を染めたりたばこを吸っていたりと不良じみたことをしているが、基本的に害のない人間だと自負している。


――鏡を見てみなよ。

中学校の頃、女子生徒に告白をされ、俺はさっくり少々回りくどく断った。恋愛についてよくわからなかったやんちゃな子供だったのだ。
それに、自分自身のことは『根暗』と評しているので、何故、こんな俺のことを好きになれるのかよくわからなかったのだ。それで、素直に聞いてみた。

『かっこいいから』だそうだ。

え、そうなの? そう聞いたら『鏡を見てみなよ』という返事をもらった。


礼を言い、何故か怒り心頭な彼女を罪悪感を残しながらも放置して帰ると、その日のことはすっかり忘れて俺は、友人たちと暇つぶしのバスケを楽しんだ。

ちなみに彼女はとても可愛い方と思う。だから怒っていたのかは、俺には判断できない。


なんだかんだ日々が過ぎて、卒業式の直前辺りに彼女のその言葉を思い出して、ためしにと鏡を見た。

まじまじと自分の顔を見ることなんて少なかったけれど、これはたしかにかっこいい部類なのかもしれないと素直に思った。



この顔にあった行動と、相応の改善点は何だ。



その日に、なけなしの金をはたいてブリーチとワックスを買った。ついでに両親の寝室に放置されていたたばこを頂戴した。
タバコ代は浮いたが、大体2000円くらいの投資になった。
自分でも行動力のある人間だと思っている。


投資の結果、半分成功して半分失敗した。
ガチガチの金髪は割りと似合っていたし、顔も少し老けたように見えるし、タバコも問題なく買えた。女の子も似合っていると言ってくれたし、卒業式の日に告白じみたことされた気がする。
友人たちは笑ってくれた。オタクみたいな生徒たちも笑っていた。
いい卒業式になったと思う。

問題は卒業式の前日に染めたことだった。

先生たちにはこっぴどく叱られ、どこから用意していたのか黒髪スプレーを頭全体にかけられた。
おかげでその日に来たワイシャツにはスプレーの跡が消えない。今でも着ているけど。



俺という人物はだいたいこんなかんじだ。



しかし、投資の失敗というのはまだ続いていた。
細かいところは後ほど話すけれど、ざっくり話す。

運悪く多少頭が良かった俺は進学校へと進んでいた。
とびきり偏差値の高い学校ではなかったので、少し堅苦しい高校だった。

……中学時代進路よりも趣味に時間を回していた自分を呪いたい。

髪も改めて染めなおして、茶色ぐらいにして学校へと向かうと、目立ってしまった。

ようは先生方からは「ちゃらんぽらん」だと写ってしまったようだった。



中身が本質と入ったものだけど、

本質とは一体何なんだろうね。
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