純愛は似合わない
「『手出し不要』だったのでは?」

「……良いかなと思って」

私の方を向いた瀬戸課長と目線が合わさる。

彼の言葉の意味に躊躇した時、思わぬ声が聞こえた。

「ぜーんぜん良くないんですけどー?!」

いつの間にか真後ろに立っていたヒロが、私の代わりに間の抜けた返事をした。

「なーに早紀ちゃん、競争率高いじゃない」

「……君、今日のドリンク担当?」

「それは仮の姿ですけどね」

ヒロは美麗な笑みを口元に浮かべた。

瀬戸課長は私に困惑気味の視線を投げて来た。

「ヒロ」

「こんなところで説教されるのは、今日は早紀ちゃんだけで充分でしょ。俺には要らないからね」

ヒロはウィンクを飛ばし、我が物顔で私の腕を引っ張っる。

「ヒロってば、引っ張らないでよ」

「ダメですよ、かちょーさん。……弱ってると思って手なんか出しちゃ」

ヒロは低い声で、威嚇した。

「それに、彼女は俺のになる予定なんで」

「君、友野社長のこと忘れてないかな? それとも知らないのかい?」

「それはお互い様でしょ、かちょーさん」

これではまるで、なんとかの睨み合いだ。

ヒロはいつもの人当たりの良さを消してしまったし、瀬戸課長はこの胡散臭げな人物に疑念の真っ最中らしい。

「千尋君、お仕事しに行きなさいよ。あんた本当に寺田君に頼り過ぎよ」

「う~ん。早紀ちゃんが来てくれたらね」

ヒロは譲歩する様子もなく、私を掴む手に力を込めた。
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