純愛は似合わない
「君も言うね。悪趣味と来たか」

課長は口元を緩ませて、私を見る。

最初に課長のことを悪趣味と言ったのは私では無いけれど、それは黙っておこう。

「普通、もっとオブラートに包むものでしょう?」

「僕も驚いたから。彼女が追い掛けているのは知っていたけれど……」

「知ってましたよ。だから逆に知らない瀬戸課長にビックリ。……なんて。フフ」

私は可笑しくなって笑いが込み上げて来る。こういうのを三文芝居っていうんだわ。

「どうしたの? 成瀬さん」

「……瀬戸課長は『良い部下』なんですね。それとも『良い友人』かしら」

「どういう意味かな」

瀬戸課長は眉を顰めて、水の入ったグラスに口を付けた。


「頼まれたんですよね? 探りを入れるように」

「もう……探りなんて、人聞き悪いなぁ」

ばつの悪い顔をした瀬戸課長は「それだけじゃないんだけどね」と幾分声のトーンを落とす。

「私も課長にお聞きしたいことがあったから、丁度良かったですけれど」

瀬戸課長は小首を傾げた。

「……ソリューションで今、何が起きているんですか?」

「……何でそう思うの?」

「あの人の忙しさ、尋常じゃないでしょ。……それに普段なら、彼の御両親が今日みたいな日を覗きに来ないわけがないもの。お忍びでもね。ひと月も前から予定は決まってたのに」

ーー ずっと違和感を感じていた。

2人で食事に行った時も。

疲れているくせにそのことに触れると、今思えば過剰に反応していた。







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