豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


「ミツ、顔も出さねーな」
「なんか、本格的に塾講師の仕事を入れ始めたらしいぞ」
「ほんとか?」
「あいつももう28歳だろ? 女ってそれぐらいの時期いろいろ考えるもんだしな」


劇団員達が話しているのが、耳に届いた。


いろいろ考える?
何を?


孝志は心の中で首を傾げた。


「輝、お前、なんか聞いてる?」
一人が訊ねた。


「いえ、別に何も」
輝が首を振った。


「もう振られちゃった?」
誰かが冗談めかして訊ねた。人の色恋沙汰は、本当に楽しい話題らしい。


輝がとたんに不機嫌そうな顔になる。それからちらりと孝志の顔を見た。


「NOとは言われませんでした」
「お? OKってこと」


はあ!?
嘘だろ?


ゆうみが「孝志、顔、気をつけて」と耳元で声をかけた。


輝がもう一度ちらりと孝志の顔を見た。口惜しそうに口をまげる。
「考えさせてって言われました」


「出たー、保留されたー!」
みんながお弁当を手に転げる。人の不幸は、とりあえず楽しいらしい。


孝志もほっと胸を撫で下ろした。


ゆうみが笑いながら「だから、顔を気をつけてよ」と言った。

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