豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


朝、輝と一緒に稽古場へ向かう。
天気は上々。春の訪れを感じさせる暖かさだ。初日まで一週間ちょっと。
光恵にとっていろいろあった舞台だったが、初日はやっぱり楽しみだ。


稽古場に入ると、「お、ミツじゃーん」と劇団員から声がかかった。


「おはようございます。ちょっとだけ顔出しに来ました」
「入って入って」
輝は光恵の腕を引っ張って、稽古場の中に入れた。


稽古場の壁にもたれて座っている孝志が目に入った。孝志も光恵をちらりと見る。それから少し緊張したような表情をして、うつむいた。ゆうみが隣から話しかけている。それをただ頷いて聞いているように見えた。


「ミツ、特等席おいで」
三池が舞台を見渡せる監督席の横を指差した。ミツは素直に隣に座った。


「今日はすぐ、通し一本やるから」
「はい。どうですか出来上がりは」
「輝がいいな」
三池が言う。


「あ、やっぱり。輝くんが自慢げに言ってました」
「そうなんだ、突然、殻を破ったみたいに。なんか突き抜けたんかな。でも孝志がなあ」


三池が腕を組んだ。


「まずいんですか?」
「前からなんていうか、ちょうどよくまとまる感じはあったんだけど、それに自分で悩んだのか、今はブレブレで」
「……そうですか」


三池はちらりと光恵を見てから、にやりと笑う。


「輝は感情的に突っ走るタイプだから、舞台を壊すかとも心配してたけど、いい方向に向いたらしい。孝志はプロであろうと思うあまり……って感じなんだろうなあ」



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