豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


「彼は大手の家電メーカーに就職したけど、わたしはこんな暮らし。自然と距離ができて、別れたの。でもあれから三年経った今、何度も彼の言葉を思い出す。今は楽しいけれど、バイトをしなくちゃ食べて行けない。それで『わたしの仕事です』って言えるんだろうか。ずっと続けられるものなのだろうかって。そうやって不安になって、悩んでいるうちに、彼は結婚してしまった。彼はどんどん自分の人生を歩いているのに、わたしは?ってそう、思うんだよね」


光恵はぽかんとしている孝志に目をやった。


「ねえ、不安になったことない? 役者で食べて行けるのは、本当に選ばれた少ない人たちでしょ。これから結婚したいって思える女性に出会ったとき、自分じゃ食べさせられないかもって、心配にならない?」


孝志は首を傾げた。


「深く考えたことなかったな、そんなこと。俺、ミツみたいに大学出てないしなあ。選択肢も少ない」
そういって笑った。


「そっか、人それぞれだよね。なんだか、妙にいじけちゃった。まったくやんなっちゃうね、わたし」


光恵は笑って孝志の腕を軽く叩いた。


「クールダウンのつもりで歩いて帰って。このお弁当以外、食べちゃ駄目だからね。また稽古場で」


光恵が軽く手を上げると、孝志は頷いて歩き出した。


もしあの時、彼のプロポーズを受けていたら、どうなっていただろう。
夢をあきらめることができただろうか……。


光恵は空を見上げた。


空は真っ青。
夏が近づいている。
暑くなりそうだ。


< 18 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop