てのひらの温度

私は歩き出す。関係ない。人と人の生きる道は交わらない。人生はいつだって、ただの一本道だ。前か後ろか、右か左かに伸びてゆくだけだ。

あの人たちがどう生きようと私には何の影響もないように、例えば今こうして隣にいる紺の人生も私には無関係のはずだ。交わりはしない。ただ、たまたま道が隣り合わせになっているだけなのだ。

なのに、どうして。人は人生は交わったり寄り添ったりできると思ってしまうのだろう。

それともごく稀に、寄り添えることがあるのだろうか。


「ドラマみたいだったな」

「三流以下のね」


今夜はどうしようか。どこに泊まろうか。こうして考えているときの方が、体内の血液を感じる。一分先の見通しもつかないことは、驚く程微細な瞬間に触れる。

頬を撫でる風が温い。常温に置きっぱなしにした水気のないゼリーにぶつかられたよう。この風は、自分が何処へ行くのか何処へ行けばいいのか、ちゃんとわかっているのだろうか。迷いなく進む彼らを、少し、羨ましい。



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