アメット

 本来、植物の葉は緑色をしているものだが、環境の変化に適応し進化を遂げたのか、緑色の葉は薄紫に変化し毒々しい。

 また枝の表面には無数のトゲが点在し、外敵の捕食を防ぐ。

 纏っている防護服のお陰で、手を傷付けることなく植物を採取していくことができる。

 ふと、男の視界の中に一輪の花が映り込む。

 しかし開花が早いのか花といっても蕾の状態で、開花時期は不明だ。

 それでも貴重なサンプルになると男は蕾を撮影した後、採取を試みる。刹

 那、男の指が蕾に触れた瞬間「ボン」と、空気が破裂するような音が鳴る。

 同時に蕾は破裂し、中から大量の緑色の粉を噴出す。

「な、何だ」

 まさか軽く触れた程度で破裂するとは思ってもみなかった男にとって、これは意外過ぎる展開だった。

 粉の影響で防護服の一部が緑色に染まってしまうが、噴出した粉は防護服に影響を与える成分が含まれていなかったので、男の生態面の危機に繋がることはなかった。

 だが、これはこれで面倒といってもいい。

 不可思議な植物の粉を浴びたとなれば、調査の対象となる。

 また防護服に影響を与えなくても、人体に有害な物質が含まれているかもしれない。

 勿論粉を持ち帰って調査するのだが、緑色の粉塗れの状態では気が滅入って仕方がない。

(……厄日だ)

 男は心の中で呟き、自分の状況を嘆く。

 それでも自分がやるべき仕事内容は忘れておらず、小型のメスで粉を吐き出し萎れてしまった蕾の根元を切り取り透明なケースに収納する。

 その時、強風が吹き荒れる。

 その強風により周囲を覆い尽くす薄茶色のベールが一定方向に流れ、砂埃を天高く吹き上げる。

 小石が防護服にあたり、コツコツと音を鳴らす。

 この場合その場から動かない方が安全だということを知っている男は、強風が治まるのを待つ。

『生きているか?』

「何とか」

『気象状況が不安定になったと情報を得たので連絡したのだが、生きているのならそれでいい』

「酷いものです」

『無理はするな』

 相手からの心遣いに男は感謝の言葉を返すと、強風が治まり次第ドームに戻るということを告げる。

 それに対し相手は一言「気を付けろ」と何処か素っ気無い言い方をし、やはり一方的に通信を切ってしまう。

 そのことに男は肩を竦めると、大地から顔を覗かす石に掴まり強風に耐える。

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