アメット

(汚い)

 それが、最下層の光景を眺めたシオンの正直な感想だった。

 彼が暮らしている階層と大きく違い、大気の汚れは目視できるほど汚い。

 それでも外界の汚れきった大気よりはマシというものだが、浄化された大気の中で暮らしているシオンは防護マスクがないと肺を害してしまう。

 外界に近い大気の汚染度にシオンは悪態を付き、最下層の住人は汚染度が酷い中で暮らしていると思うと居た堪れなくなってしまう。

 彼等は産まれ頃からこの汚染された大気の中で生活しているので、身体が適応しているのか。

 それとも、独自の進化を遂げているのか。

 後者であった場合、科学者が目の色を変え最下層の住人の身体を調べるだろうが、そのような人物に情報を提供するほど、シオンは落ちぶれてはいない。

 またこれほど汚染が広がるまで調査を放置していたことに、階級が上の者の怠慢っぷりを身を持って知ることになった。

(このような状況になるまで、見向きもしないとは……上の者らしいと言えばらしい。寧ろ、彼等にとっていらない住人というべきものなのか。全く、手を付けないのだから。でも、どうして……)

 エレベーターの側に設置されている機械は、最下層の住人を上の階層へ行かせないように設置されたもの。

 なら、どのように上の者に苦情を出したのだろうか。

 失礼ながら、最下層の生活は裕福とはいえない。

 現に、シオンの目の前に広がっている町の光景は「寂れた町」という言葉が似合う。

 また、上部では当たり前となっている天井にホログラム画像を投影する装置が見受けられない。

 剥き出し状態の天井は鉛色で覆われ、一応微かに明かりは灯っているが電力不足も深刻なのだろう薄暗い。

 これだと天候制御もままならないだろうと、シオンは不便さを嘆く。

 建物はドーム建設時初期に建てられた物なかりで、汚れが目立ち所々が剥離したり崩れたりしている。

 これらの状況にシオンは「寂れた町」というより「スラム」という単語が適切なのではないかと考える。

 まさか、物語等で知った単語が実在するとは――何とも複雑な心境に陥る。

 文明文化に取り残された状況の中では、上部の生活では当たり前となっているコンピューターでの管理は行われていないだろうと予想する。

 同時にネット環境も怪しい現状に、シオンは最下層の住人はどのような方法を用いて上の者に調査依頼を行ったのか、疑問視する。

 しかし、余裕を持っていられる状況ではない。

 彼が事前にネットで収集した最下層の情報の中に「犯罪の巣窟」という言葉が含まれていた。

 その者達が防護マスクを着用しているシオンを目にしたら、違う階層からやって来たよそ者と判断し、襲い掛かってくるかもしれない。

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