アメット

「何故?」

「敬語を使う」

「いけませんか?」

「上の連中は、下の者を見下している。お前のように、敬語を使って話す奴なんていないって言いたいんだ」

「いつもの癖です」

 男の言うようにシオンは彼等より階級が上だが、参加するプロジェクトでは下っ端。

 命令で外界に赴いて調査を行えば、このように最下層まで行かないといけない。

 上の者には敬語を持ち入らなければ何を言われるかわかったものではなく、だから親しい人物以外には敬語が出てしまう。

 シオンの実感の篭った話に、再び周囲の者が笑い出す。

 ドームの上部に暮らそうが、そこでも嫌というほど感じる階級制度。

 自分達とは暮らす場所が違えども苦労は一緒だということがわかったのだろう、彼等は急に親近感を覚え別に敬語を使って話さなくてもいいいう。

「で、本当に来るとは……」

「本当?」

「どうせ下の連中の煩い戯言と、片付けられると思った。まさか、調査に来てくれるとは……意外だ」

「上司は、嫌がっていた」

 敬語を持ち入らなくていいと言われたので、普段アイザックと話をしているような口調で本音を話す。

 シオンの話に男は、それでも調査を行う者を向かわせてくれただけで何か裏があるのではないかと危惧する。

 しかし裏を読むほどのものはなく、自分が行かないから受け入れたというのが正しい。

「それで、お前が」

「ええ、まあ」

 流石にこのような状況の中で、じゃんけんで最下層へ行く人物を決めたということは話せない。

 その点は胸に仕舞い、適当にはぐらかす。

 それについては相手側も追求することはせず、寧ろ来てくれたことが奇跡のようなもので有難く、男はシオンを快く歓迎してくれた。

「そういえば、名前を聞いていなかったな。何ていうんだ? 俺は、セルゲイ。そっちは妻のエイネール」

「シオン・バイハームです」

 自分自身の名前をフルネームで発した時、シオンはひとつの情報を思い出す。

 最下層の住人は、ファミリーネームが抹消されている。

 これもまた階級制度の闇の部分というべきもので、一番下の者は名乗るのに値しない存在。

 要は、ドームのお荷物といいたいのだろう。
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