きっと、これは

-笠井Side-

 池内先輩が返しに来た本に、タケ先輩の図書カードが入っていた事には驚いたが、この本をタケ先輩に返して来てくれと言われたんだと知ると、すぐにタケ先輩の企みに気付いた。
 俺があの日、タケ先輩に余計な事を言ってしまったから、勘付かれたんだろう。
 まぁ別に、隠し通すつもりもなかったからいいんだけどね。
 池内先輩は、困惑した表情でこちらを見ていた。
 俺はタケ先輩の企みに気付いているけど、彼女はきっと何も知らない。だから未だに、何故自分が返しに来なければならないのだろうと、思ってるだろう。
 けど俺も、彼女には何も言わないでおこうと思った。
「返しに来ただけですか? 何か借りていきます?」
 俺はカード処理を終わらせると、それを学年・クラスごとに分けられたカード入れに入れた。
「あ、じゃあ……借りて行こうかな」
 そう言うと彼女は、室内をうろうろと歩き出した。
 俺は適当に近くにあった椅子に座って、机に頬杖をついた姿勢で、彼女の行動を眺めていた。
 ちょこちょこと小動物のように歩くところ。
 どうしようどうしようと、本を選ぶ姿。
 俺が見ている事に気付いて、照れたようにはにかむところ。
「これにしよ」
 そう言って選ぶ終えると、笑顔で俺の所に本を持って来るところとか。


 俺は、可愛いなって、思った。


「じゃあこれを、お願いします」
「ん」
 俺はさっきタケ先輩のカードを仕舞ったカード入れをごそごそと漁り、先輩の名前を探した。
「“池内”って、クラスに一人だけ?」
「そうだよ」
 一枚一枚丁寧にカードを見て行き、やっと先輩のカードを見付けた。
「……美鈴?」
「え……」
「先輩、美鈴って名前なんですね」
「あ、ああ……うん。そうだよ」
「へー」
 俺はカードに、今日の日付、本のタイトル、貸出日、返却日を記入し、巻末のカードポケットにそれを差し込んだ。そして本をパタンと閉じると、「はい」と、先輩にそれを手渡した。
「ありがと」
「どういたしまして」
「棒読み~!」
 お礼を言われたから普通に返したんだけど、棒読みだと言われて笑われた。
 けど楽しそうに笑う姿を見て、僅かだけど、俺も笑った。
< 8 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop