声を聞くたび、好きになる

 紙川出版!?

 うそだ。絶対あり得ない。


 私は強く首を振り、大きく深呼吸した。

 紙川出版と言えば、多くの有名作家を世に送り出した大手出版社。私の持っている画集やライトノベル、ブルーレイディスクの大半は紙川出版が販売、製作元になっている。

 芹澤さんは、そこの出版社の編集者をしている……。そんな人にイラストを買ってもらえるなんて奇跡かドッキリとしか言いようがない。絶対、騙されてる!

 信じられない。信じられるわけがない。

 芹澤さんのメールを何度も読み返し冷静になろうとしたけど、読めば読むほど頭は熱くなり、胸が壊れそうなほどドキドキした。


 流星にサヨナラを告げられた時とはまた違う震えが、全身を支配する。

 ろくに働いたことのない私が、大手出版社の専属イラストレーターになるなんて、ハードルが高すぎる。今までの人生の難易度がレベル3くらいだとしたら、イラストレーターの仕事をする日常なんてレベル100を余裕で越える。

 朝決まった時間に出勤したり、休憩中に同僚とコミュニケーションを取ったりお昼休憩に一緒にご飯を食べたり……。無理!絶対嫌だッ。それが嫌だから、私は多くの人間関係を持たず限られた空間の中でこっそり暮らしてるというのに。
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