悪魔と私
あくまがいっぱい

「服が欲しい」



よく晴れた日曜日。

そんな事を言い出した悪魔によって、私はショッピングに連れ出されていた。


独りで行けと抵抗したのだが、余りに押しが強い悪魔に、寝起きで頭がボーッとしていた私は、うっかり負けてしまったのだ。

私は沈んだ気持ちで、バスに揺られる。


向かう先は、すぐ近くの港にできたという、アウトレットモールだ。

悪魔がバイト先で薦められたらしい。


私はため息をついた。


11月に入り、すっかり寒くなってきたというのに、黒いシャツをペラリと1枚しか着ていなかった悪魔は、「おかしい」と、バイト仲間に心配されたのだそうだ。

そして冬服を持っていないという悪魔に、最近できたアウトレットの話をし、服を買うよう薦めてきたらしい。


余計なことを。
私は少しその店員を恨む。


しかし、コートを着ている人もちらほらみえる、この時期に、ぺらりとシャツ一枚では心配されても仕方がないかと思い直した。



「俺、寒さなんかわかんねえから、気づかなくてさ」

「わかんないんだ」

「人間界の温度差なんて大したもんじゃねえからな。100度下がるとかなら、流石に寒いけど」

「ふーん」

「興味なさそうだな。ま、いーや。とにかく服買わねえと。気に入ってんだけどな、コレ」



そういって、悪魔は一張羅である黒いシャツの衿を指でつまんだ。

特殊な繊維で出来ていて、悪魔の自浄能力が作用する、汚れない服だ。

悪魔は、これ1着しか服を持っていない。

初めて会ったときからこの格好だ。



「今まで、バイトで何か言われなかったの?」



いつでも同じ服って、なんか気にされないのだろうか。

しかし、悪魔が言うには、バイト先の人は皆、悪魔の服をバイト用だと思い込んでいるらしかった。


「ほら、バイト中って、これにエプロンするだけだからさ。俺が着替えるの面倒くさがって、バイト着のまま来てると思われてたみたいだ」

「なるほどね」



それで2ヶ月も同じ格好なのに何も言われなかった訳だ。

私が納得して頷くと、バスのアナウンスが終点に到着したことを伝えた。



「着いたな。いこうぜ!」

「はしゃがないでね。鬱陶しいから」



私は、意気揚々とバスを降りる悪魔に再び溜め息をこぼしたのだった。
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