10円玉、消えた
「ハハハッ、それは言いがかりだのう」

「“息子に近づくな”とか言われたんですか?」

「いやいや、そんなことはない」

「じゃあ何を言ってたんですか?父は」

「まあ色々とな」
老人は曖昧な答え方をすると、どっこいしょと言ってベンチに腰掛けた。

つられて竜太郎もその横に座る。

辺りはかなり暗くなり、弱々しい外灯の光だけが二人を照らす。
気まぐれな風に乗って、どこか近くの家から何やら美味しそうな匂いが漂ってきた。
竜太郎は途端に空腹感を覚える。

その雰囲気を察知して、老人が竜太郎に言う。
「腹が減ったじゃろ」

鋭いところを突かれた竜太郎は、やや慌てて言葉を返す。
「い、いえ大丈夫です。それに腹が減ったってことよりも、父と三間坂さんの間に何があるのか、そっちの方が気になりますから」

「なるほど。じゃあ聞かせてあげよう。空腹な君のために、話しはなるべくかいつまんで説明するからの」
そう言って老人はニコッと笑った。



この爺さんのどこが詐欺師なんだろ?
父さんは“信用できない”“話しをするな”とまで言い切った。
でもやっぱりあれは嘘なんだ。
でなきゃわざわざこの公園まで会いに来るはずがない。



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