甘い唇は何を囁くか
そう、打ち明ける必要はあるまい。

まさか、こんなところでこんな姿の同胞に出逢うとは思ってもいなかったが―。

「なぁ、あんた。」

「あんた、という言葉はない。あまり無礼を続けると本当に殺すぞ。」

シスカは男の方を見向かずに言い凄んだ。

「そりゃ、失礼しました。あんた名前なんてんだ?俺、宗眞。」

まったく失礼だとは思っていない口ぶりで続けると、シスカの隣を寄り添うようについてくる。

宗眞、それがこの男の名か。

遼子と同じ日本人か…?

いや、にしてはこの目の色は訝しい。

「どこの国出身?その銀髪、かなり良いよな!あんたって何歳?俺の推測だとなぁ、5、600はイってる?」

何故-分かるのかと、不覚にも頭の中で彷彿したが、まったく顔には出さずに答えた。

「煩い、消えろと言っている。」

「俺は、270歳くらいかな。具体的な数字は忘れたけど、出身国はアラブなんだ。何て国だったかな。」

宗眞は、まるでシスカの言っている言葉などおかまいなしに話しかける。

シスカは、ため息を零して立ち止まった。

振り返り、宗眞と向かい合う。

自分よりも4・500歳は歳若い男。

だが、それでも遼子よりもずっとずっと年上であるには違いない。

「いいか、小僧。」

シスカは伏し目がちに言葉を続けた。

「お前が何歳で、どこの国の生まれだろうと、俺には関係ない。今夜は話をするのも煩わしいんだ。とっとと失せろ。」

宗眞は眉毛をくいと上げて答えた。

「いやだ。」

っていうかさ、と言うとシスカが二の句を告ぐ前に言った。

「遼子にUnfaithful、感じちゃったんだろ?それ、ヤバイよ?」

ぴたりと、シスカが動かなくなると、宗眞はやっぱりと続けた。

「知らなかったんだろ?つか、今から誰かのとこに聞きに行こうとしてた?無理無理!誰も教えてくれないよ。つか、誰も教えられないんだよ。そういう決まりだから。」

決まり―?

「あんた、俺よりもずっと長く生きてんのに、何にも知らないんだな。同種のこと。」

シスカは視線を落とし、硬直した。

確かに、シスカはあまりにも知らない。

ヴァンパイアのことを、自分のことを―。

「ま、基本的に不可侵だから知らなくても当然っちゃ当然だけどさ。あんた、自分をヴァンプに変えた奴の居場所は分かんないの?」

・・・

「そっか、分かんないのか。おっかしいな、普通分かってるもんだけどね。んじゃ、Unfaithful、がどういうものなのか、も分かってないわけだ。」
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