甘い唇は何を囁くか
「もう少しだな。」

その言葉に目蓋を開けて宗眞を見る。

「マジで?もう十分でしょ、早く噛んでよ!」

こんなにしんどいのが、まだ続くの?!

もういらない。

もうこのしんどいのいらないから、早くとってよ!

宗眞は、くっと笑って言った。

「そうはいっても、毒がまわりきらないと、噛んでも人間にできないし。」

「もう、もうやだ!もういやだってばぁ!」

えんえんと泣きじゃくる。

宗眞は額に手を当てて答えた。

「今夜、もう一回来るよ。そん時に噛もう。」

って。

もう、希望も何もない。

こんなことになって、ヴァンパイアになる意味も―。

本当は、ないのかもしれない。

でも、もう戻れないってことだけは確かで・・・。

死ぬ勇気なんか、もっとない。

頬をつたう涙と、宗眞の気配が遠ざかるのを感じる。

時間の感覚がなくなりつつある中、ふたたび闇の中に混濁した意識を突き落とした。
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