甘い唇は何を囁くか
サングラスをはずすと、紅い目の男はますます面白そうに笑い顔になった。

それがなお更シスカの感情をなぶる。

「何がおかしい。」

思わずそう問いかける。

かみついてやろうか―。

苛立って眉間に深い皺を刻んだ。

「そうは、見えないなぁと思って。ま、どうでも良いんなら、俺の好きにしちゃって良いよね。さ、ホテル戻ろっか。」

くるりとシスカに背を向けると男は女の肩を抱いて引き寄せた。

「ちょっと!」

「照れない照れない。」

嫌がるそぶりを見せる女に笑いかけて、あっという間もなく、その柔らかそうな唇を塞いだ。

身体の中に、電流が奔った。

燃え上がるような熱い電流が。

シスカは思わず駆け寄りそうになる足に杭を打つ気持ちで、視線を伏した。

もうこれ以上見ていたくはない。

何故だ…、心がざわつく。

「何すんのよっ!」

女の声がした。

嫌がるのも女の手の内だと知っている。

俺が、この女をスキだって…?

愛してるだと…?

そんなわけがない。

シスカはふらりと歩き出した。

背後に男とあの女の気配がある。消してしまいたいのに、その声も聞こえてくる。

何だ、行っちゃった―と男が言った。

知るかっ!

心の中で答えるように叫んだ。
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