甘い唇は何を囁くか
どうだって良い。

そう、思っていた、そのはずだ。

なのに、あの男の唇が女の口を塞いだ瞬間、理性を留めていた螺子が外れてしまったように感じた。

そもそも―、あんな子供の女相手によくあんなキスができるものだ。

そうだ、俺なら…。

俺ならもっと…。

「あんた、見つけやすいね。」

ハッとして顔を上げると、シスカの目の前にさっきの男がいた。

なんてことだ、人間がこんなに近付いていることに気がつかないなんて!

そう思うと同時にごく自然に手が男の胸倉を掴み、その身体を軽々と持ち上げていた。

「-何の用だ、こぞう。」

何とか、震えを抑えて言葉にする。

「と、りあ、えず、おろしてくれません、か…?」

息も切れ切れに男が言う。

シスカは、ふうと深く息を吐いて、ゆっくりと男を下ろした。

げほげほと男が咽ている。

いけない、何故だかこの男に対し、酷い殺意が湧き上がっている。

他に、人がいて良かった。

流石に殺してしまうのはよくない、この街にいれなくなってしまう…。


…?

自分の思ったことにシスカは小さく首を傾げた。

「危険な男だな、とは思ったけど…やっぱあんた危ないね。」

男の言葉に現実に引き戻される。

シスカは目を伏せたまま言った。

「俺は、何の用だと言ったんだ。質問に答えろ。」

男はへぇへぇと言うと胸ポケットからサングラスを取り出して赤い目を隠すようにかけた。

「俺とあの子は何でもないよ、ホテルのロビーで会っただけで、食事も一緒にしてくれなかったからさ。あんたにはっぱかけようとしてキスしたのも、マジギレしてたしね。」

・・・

シスカが何も答えないのを見遣り、ため息交じりに言葉を続けた。

「あの子、日本に帰っちゃうぜ?」

「…それがどうした。」

ようやく帰ってきた言葉に、宗眞は唖然として、ぷいと背を向けた。

「別にぃ。じゃ、それだけだから。」


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