甘い唇は何を囁くか
予測できなかった事態に、遼子はしこたま打ちつけたお尻を摩りながら男を見上げた。

「何すんのよっ!」

男は、さきほどの唖然とした顔からとって変わって、まるで遼子を蔑むような視線を落としている。

思わず気圧されて、何よ…と小さく呟いた。

この人の前にいると、この人はまるで高貴な王様みたいで、そうすると自分がものすごく小さなものに思えてくる。

本当に、私が欲しい、そんなわけない―。

この人にとって、私はただの…そう、きっとただの通りすがりの女で、ちょいとつまんで捨てる感じの…言わばおつまみ的な存在に過ぎないのだろう。

だから、そんな存在の人間に「馬鹿にされた」みたいで腹が立ってるんだわ…。

この人の前に立って、また今度って言う勇気のある女の人なんて、いるとは思えないし…。

きっと、私だけだったんだわ―。

「で、でも…だからって落とさなくても良いじゃない!」

奮い立って、何とか言い返す。

物言わぬその王様に。

王様は、ふいと視線を逸らすと、何も言わず歩き出した。

「へ、あ…ちょっと!」

もう、良いって、背中が答えるのを拒否しているのがすごく伝わってくる。

足取りは決して早くもなくて、しなやかなのに、どこか…猛々しい。

「何よぉ…。」

そりゃ、そりゃもったいぶるつもりはないけど!

別に、ヤッちゃっても良いんだけど!

それをお土産に日本に帰って、何の問題もないに違いないんだけど!

「もうっ!」

遼子は、一人呟いてフローリングの床をにらみつけた。

あの人はきっと、もう二度と私のところには来ない。

それが、分かっているから、余計に胸がチリチリと痛んだ。

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