隣人
プロローグ
見覚えのない青年と、目があってしまった。
誰だろう?
アパートの階段のところで、青年はぽつりと佇んでいる。
邪魔だなぁ。
どこか威圧的な瞳をした青年は喋ろうともせず、かといって目をそらそうともしなかった。
まるでそらした方が負けだとでも思っているかのようだ。
「フリーガーさん、お待たせしました」
アカリの背後から見成りのいい男が現れ、青年の前で立ち止まった。
「こちらが契約書です。ここと、ここにサインをお願いします」
不動産屋のリラだった。
青年は軽くうなずくと、リラの差し出した契約書を受け取って、サインをする。
アカリはその隙にアパート階段を駆け上った。
あぁ、やだな。
契約書の端が少し目に入ってしまった。
青年ーエドゥアルド・フリーガーは、このアパートの新しい住人らしかった。




階段を駆け上がっていった少女を、エドゥアルドは視線で負った。
ここの住人だったのか。
階段を上るのに、自分が立っていた位置が邪魔だったのだろう。
随分睨まれてしまった。
「あの娘とは関わらない方がいいですよ」
不動産屋の男は、書類をファイルに戻しながらそう言った。
「まぁ見た目は可愛いんですけどね。芸術家で、変なものばかり1日中作ってる変わり者なんですよ」
少女の入った部屋は2階の右。エドゥアルドはその隣の部屋に入居が決まっていた。
隣人か。
変わり者だろうとエドゥアルドは構わなかった。
仕事に差し支えなければ、どうだっていい。
どうせ、長居する予定は始めからないのだ。

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