甘い恋飯は残業後に



「――宗司さん、万椰さんのことよく見てますよね」

情報漏洩の件を上から知らされた日、俺は何となくまっすぐ帰りたくなくて『ラーボ・デ・バッカ』に寄った。癒しを求めていたのか、いつもはちらりと覗くだけの一階を、無意識にじっと見つめてしまっていたようだ。突然、料理を運んできてくれた顔見知りのスタッフの女の子に声を掛けられて、ドキリとした。


「……いや、面白い子だなと思って」

その時の彼女は何やら嫌なことがあったようで、カウンターで管を巻いていた。

「万椰さんを見てそういう感想を言う人、初めて見ましたよ」

きっと大半の男性は『美人だ』とか『スタイルがいい』とか、容姿に関することが多いのだろう。
でも、俺から見れば彼女は面白かった。

上品そうな顔をしているくせにワインの飲みっぷりはいいし、そうかと思えば高柳さんに甘えて子供みたいな話し方になっていたりする。

彼女は本当のところ、どういう人間なのだろう。


この何か月か後、俺は彼女のいる店舗営業部に異動になる。ずっと同じフォレスト内にはいたものの、今まであまり接点がなく、話す機会もほとんどなかった俺は――職権乱用をした。


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