薬指の約束は社内秘で
館内を流れるBGMがやけに遠くに聞こえる。
どれくらいの間こうしていたのか、長くてもほんの数秒だと思う。

静かに流れていく時間が心地よくて重なり合う鼓動に耳を傾けていると、私の背中を抱き寄せた腕が緩む。
隙間なく埋められたふたりの距離が少しだけ開くと、

「藤川」

柔らかい声に自然と目線が引き上がり、左の頬に優しく手が添えられる。

見つめ合う一瞬。

あの日とは違う意思のある瞳がゆっくり傾き、葛城さんの前髪がサラリと頬を掠めると、柔らかいキスが唇に落ちた。軽く触れた唇はすぐに離れてしまう。

けれど、引き離されたこの瞬間も鼓動だけは、ドレスの内側で強く脈を打ち続ける。
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