薬指の約束は社内秘で
フロントガラスから射し込む光に、彼の瞳が僅かに細まる。ネクタイを緩める横顔は穏やかで満足そうに見えた。

きっとそれは彼に憧れる女子社員達が独り占めしたいと思っているもので、『葛城さんの彼女は、どんな人なんだろう?』そんなことを思いながら、お礼を言って車を降りた。

そして駅のホームで電車を待つ間、ふと思った。
そういえばツレに『助けてやれ』と言われたって。それって、あのホテルを気に入ってる彼女のことだよね?

そこまで考えて『うわぁー』と頭を抱える。

私は彼を痴漢呼ばわりしただけじゃなく。彼が彼女と過ごすはずのあの部屋で、一夜を共にしてしまったのか。
彼女と過ごす大切な時間を酔って騙された私なんかの為に……

自己嫌悪でそのまま電車を2本見送った。


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