薬指の約束は社内秘で
嫌みのない言葉に、私を見つめる柔らかい瞳に、胸が震えてしまう。

ズルいよ。そんな風に思ってしまう私は、なんて素直じゃないんだろう。

本当は大丈夫って何度頭で言い聞かせても、最後まで足が震えていた。それに気づいた田村君が嘲笑っていたのも知っていた。
あの場にいなかった葛城さんがそれを知るわけないのに。

ダメだって思うのに目の奥が熱くなる。慌てて視線を逸らしたら、葛城さんは言葉を続けた。

「自分に非があるって思う謙虚な気持ちが悪いとは言わないけど。仕事上だとそれが致命的になることもあるからな。もっと自分に自信を持っていい。そうしないと俺も――」

そこで言葉を切った彼に首を傾げる。
でもその後に返されたのは、唇の端を少し釣り上げたいつもの意地悪い笑みだけだった。
< 62 / 432 >

この作品をシェア

pagetop