真っ暗な世界で
「あ、そうだ!女将様じゃなくて、菖蒲さんね!!春風ちゃん♡」


「菖蒲さん……」


「うん、宜しい。それじゃぁ、早速部屋に案内するわねぇ〜」


満足そうに言って、私の手を取り、ゆっくりとしたテンポで案内してくれる菖蒲さん。


美人……だな。菖蒲さんはきっと、美人だな。こんなにも心が綺麗なんだから。


久し振りの女の人の温かさに触れ、少し戸惑いはあったけれど、心に温かいものが広がってゆくのを感じた。


「はぁーい!ここ!」


スッパーンッと何処ぞの腹黒剣客のように襖を開け放つ菖蒲さん。


「あんたが帰るまでの間、ここがあんたの家よ。好きに使いなさい。んで、何かあったら直ぐに言って」


「ありがとうございます。それでは、早速宜しいですか?」


「ん?なぁに?」


「此処にある物、全ての位置を教えて下さい」


「りょーかい!!」


菖蒲さんは嫌がる素振りも見せずに一つ一つ私の手にのせて、何処にあるのかを教えてくれた。


机の位置から窓、引き出し、筆の位置と何もかも。


お陰で私が使う部屋の間取りは全て把握した。


「本当に助かります。ありがとうございました」


「良いのよ。………でも、一度で分かった?」


「はい。お陰様で完璧です」


「なら、よかった。じゃぁ、今はお休み。起きたらこの店の部屋全て回ろう」


「はい。ありがとうございます」


深々と頭を下げ、お言葉に甘えて今は眠ることにした。

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