真っ暗な世界で
第5章

屯所の日常

「土方さん、 ただいま戻りました」


屯所に帰り、すぐさま土方さんの部屋へ行き、先程長州藩士から得た情報を伝えた。


「………連日照屋に集まっていたのはその奴等かと」


「証拠は?」


「本人が、そう言いました」


「そうか……。ご苦労さん」


土方さんは疲れたような声で私に労いの言葉をかけた。


「いえ……。土方さんのほうがお疲れなのでは……?」


「まぁ、な……。案の定、あいつらが手を組んで俺で遊びやがる」


私が聞くと、土方さんは心底疲れたように呟いた。


あいつら……沖田さんと咲洲玲那か。


「咲洲玲那は、間者という線は…?」


「完全に、ではないが消えたな」


土方さんの手前、聞いてみたが実際そんなことどうだっていい。


私が気になっているのは、咲洲玲那が新選組の未来について教えていないかどうか。


「お茶、入れましょうか」


「お、ありがとよ。咲洲の茶は飲めたもんじゃなかったからよ」


思い出したくないほどの味だったらしい。うげぇ、と心底不味そうな声だった。


台所へ向かう途中、何かが動く音がした。


間者……?と思い、その音がした所へと足音と気配を消して近づいた。


「…………っ、はぁ、キツいな。会いたいよ。綾希、沙羅、愛衣…… 」


絞り出すように言った声の主。嗚咽が聞こえる。泣いているようだ。


女の声……咲洲玲那だ。


名前を呼んでいる感じでは、多分、現代が恋しく感じているのではないかと思う。


咲洲玲那が呼んだ3人との関係性は知らない。知りたいとも思わない。


もともと、私が他人に興味を示すなんて有り得ないことだったんだ。新選組が例外中の例外だっただけ。


いきなり現れた彼女に興味を示せというほうが無理な話だ。


でも、咲洲玲那がどのくらい歴史を知っているのかを知りたい。私は、歴史をあまり知らないから。


「……でも、ここで生きていかなきゃならねぇんだ」


パンと良い音がする。目を覚ますために頬を叩いたのだろうか。


「新選組は、私が守るんだ。私が知っている歴史を変えるんだ。幸せにしてみせる!!」


咲洲玲那は、決意を固めたらしい。それはそれで結構。だけど、その決意は私には少し困るものだ。


私は新選組の、幕臣としての散り様を観たいのに……。


まぁ、進む道を決めるのは彼らだ。私達のような外野じゃない。もし、幕臣をやめる選択をしたならば、私が新選組に興味を無くすだけ。


ただ、私は私のエゴのために彼女の行動を妨げる。


たとえ、新選組の人々に嫌われようとも。


私が知っている歴史が、正しいと思うから。


私は音を出さないようにその場から去った。



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