私を生きること
崩壊
「久温、話があるの」

「なに、お母さん?」

「気づいてるとは思うけど…」

「ん?」

「離婚することにしたから」


テレビを見ながらの会話。なんで。なんでテレビ見ながらなの。そんな大事な話。それに。気づいてるとは思うけどって、何。


「…そ、そーなんだ」

「あなたは大人だから、きっと気づいてるだろうって話はしてたのよ。夏希にはまだ内緒よ。」


大人って、何。私は小学6年生だよ。そうなんだね、私は大人扱いなんだ。頼りにしてもらってるってことなんだよね。別にけなされてるわけでも何でもないんだし。気にすることないか。…なんて。こんな時に何冷静に考えてるんだろ。


「どう思う?」

「どうって何?」


あなたたちが出した結論に口を出したところで何か変わるわけでもないのに。まあ、父親はそんなに好きじゃないし別になんとも思わないけど。家に女3人になるってことでしょ?いーじゃん、男がいるといろいろ面倒だし。


「…え、あ、いや、いいのよ。とりあえず、そういうことだから…」


そう言って立ち去る母。テレビから聞こえる笑い声が部屋に響く。たった一人、口を閉じて無表情の私とは正反対に、うるさく響く笑い声。


「大人って…何よ……」


口に出した途端、それはほろほろと零れた。そうだった。ずっとそうだった。幼稚園のころからずっと。「久温ちゃんはしっかりしてるね」「久温ちゃんを見習わないとね」周りの評価ばかりが大きくなっていく。小さい私には、それに合わせていくしか道がなかった。みんなが作る久温のイメージに、ただただ、あわせて生きていくことしかできなかった。わからない。何もかももう、わからない。だけど。涙はずっとずっと頬を濡らし続けていた。
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