君の世界からわたしが消えても。

「……おい、それ本気で全部食う気か」


 ひとりで感慨に耽っていると、隣から聞こえた、いつになく低い声。


 そのおかげで、出かかっていた涙も引っ込んだ。


 何事かとイチを見ると、カナのことを睨んでる。


 ……ああ、クッキー食べたいのかな?


 だけど、ベッドの上のカナも、クッキーを守るようにしてイチのことを睨んでる。


「い、イチ? また今度作るからっ」


「……俺は今食いたいんだよ」


「やらないからな! イチには絶対!」


「なんでだよ」


 そんなちょっとした口喧嘩に、なんだか笑いが込み上げる。


 こんなこと、よくあったなあって。


 泡沫のように消え去った、前は当たり前だった日常の片鱗を見ているみたい。


 幸せだなあ。


 だけど、ミヅキがここにいたら、もっと楽しかったんだろうな……。
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