君の世界からわたしが消えても。

「俺、思い出すのはやっぱり怖い。でも、やっぱり思い出さないといけないんだと思う」


「そっか……」


「うん。俺もきついけど、忘れられた母さんとか父さん、それからイチだって、同じくらいきついと思うから」


 だから、俺の記憶にいた人のことを思い出さないといけない。


 カナはそう言って、ひときわ強くわたしの手を握った。


 その痛いくらいに絡められた指から、カナの気持ちが伝わってくる。


 ……カナが、がんばるなら。


 わたしも、がんばらないといけない。


 つらくても、悲しくても、がんばらないといけないんだ。


 カナが覚悟を決めた今だからこそ、わたしはひとつ、カナに聞いてみたいことが浮かんだ。


 それはわたしのエゴでもあったけど、どうしても、聞いてみたかったこと。


 カナの記憶が戻るきっかけになるかもしれない。


 でも、それはカナにとって、とても残酷なこと。


 ……思い出して。


 だめ、思い出さないで。


 葛藤しながら、でも、自分の欲に勝てなくて、呟いた。

< 223 / 298 >

この作品をシェア

pagetop